東京地方裁判所 平成9年(ワ)5309号 判決 1999年4月22日
東京都足立区南花畑二丁目一五番一号
原告
株式会社ダイヤモンド
右代表者代表取締役
河原勢一
右訴訟代理人弁護士
得居仁
同
品川政幸
東京都墨田区東向島三丁目一六番八号
被告
有限会社バリューマーチャンダイズ
右代表者代表取締役
広瀬久照
右訴訟代理人弁護士
野田宗典
同
嶋田雅弘
主文
一 被告は、原告に対し、金二四万六四〇〇円及びこれに対する平成九年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成九年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、被告が販売する別紙第二目録記載の玩具(以下「被告製品」という。)は、原告が販売する別紙第一目録記載の玩具(以下「原告製品」という。)の形態を模倣した商品であり、被告による被告製品の販売は不正競争防止法二条一項三号所定の不正競争に該当するとして、平成七年から同八年までの間の被告製品の販売に係る損害賠償を請求する事案である。
一 基礎となる事実
1 原告及び被告は、いずれも、玩具の販売を目的とする会社である(当事者間に争いがない。)。
2 原告は、原告製品を、平成七年四月及び同年七月に大韓民国(以下「韓国」という。)のアインコーポレーション(以下「アイン」という。)から輸入し、同年五月ころから「誕生石ロザリオ」の名称で日本国内において販売した(甲第一号証、第四号証の一、第二六号証、第二七号証、証人村上和由及び弁論の全趣旨)。
3 被告は、平成七年一二月末ころに韓国から輸入された被告製品を、そのころから「誕生石ブレスレット」又は「CD&ブレスレット」の名称で日本国内において販売した(当事者間に争いがない。)。
4 被告製品の形態は、原告製品の形態と同一である(当事者間に争いがない。)。
二 争点
1 原告製品が、原告の商品といえるか否か(原告製品に関し、原告が不正競争防止法二条一項三号に基づく権利の主体となり得るか否か。)。
2 原告製品の形態が、同種の商品が通常有する形態か否か。
3 被告製品が、原告製品の形態を模倣した商品か否か。
4 損害
三 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(一) 原告の主張
原告製品は、平成六年一〇月ころから同七年一月ころにかけて、原告が企画、開発し、韓国の業者に指示して製造させ、商品化したものであるから、原告の商品にほかならない。
(二) 被告の主張
原告製品は、韓国の製造業者の商品であり、原告はこれを右業者から輸入したものにすぎないから、原告製品は、原告の商品ではない。
2 争点2について
(一) 被告の主張
原告製品のような数珠状のブレスレットは、原告製品が発売される以前から一般的に存在していたものであるから、原告製品の形態は、同種の商品が通常有する形態である。
(二) 原告の主張
原告製品は、<1>アクリル球の大きな半透明の球一二個と小さな球四個の合計一六個をつないだものであること、<2>誕生石に応じてアクリル球の色の組み合わせを考慮して一二種類の異なる色のブレスレットとしたこと、<3>それぞれに対応する色の付いた房をつけたこと、<4>四月のダイヤモンドのブレスレットは球をダイヤモンドのようにカットしたものにしたこと、などの具体的形態を有するところ、このような形態は原告独自のアイデアのもとに考案されたものであり、同種の商品が通常有する形態ではない。
3 争点3について
(一) 原告の主張
被告製品の形態が原告製品の形態と同一であること及び原告製品と被告製品の輸入・販売の時期からみて、被告製品は原告製品の形態を模倣した商品である。
(二) 被告の主張
被告製品と原告製品とは、韓国の同じ業者から輸入された同一の商品であるから、被告製品は原告製品を模倣した商品ではない。
4 争点4について
(一) 原告の主張
被告は、平成七年から同八年までの間に、被告製品を販売し、少なくとも一〇〇〇万円の利益を得た。
したがって、原告は、被告の不正競争行為により、右と同額の損害を被ったものと推定される。
(二) 被告の主張
被告が、原告主張の期間内に被告製品を販売した個数は六万一六〇〇個であり、これによって被告が得た利益は二四万六四〇〇円である。
第三 当裁判所の判断
一 争点1について
1 証拠(甲第七号証ないし第二一号証、第二三号証の一及び二、第二四号証ないし第二八号証、証人村上和由)によると、以下の事実が認められる。
(一) 平成六年一〇月末ころ、原告は、自社が販売する子供向けの玩具として数珠風のブレスレットを企画し、キーホルダーの企画、製品化を主な業務とする株式会社長谷部(以下「長谷部」という。)に、アジアの業者へのサンプル調査の窓口となることを依頼した。
(二) 同年一一月、長谷部の担当者村上和由(以下「村上」という。)は、原告の右依頼を受けて、アジアの業者数社からサンプルのカタログを収集し、原告代表者河原勢一(以下「河原」という。)に示したが、原告が求めている子供向けの玩具に相応するものは見つからなかった。
(三) 同年一二月、河原は、各月の誕生石を素材とした色別のビーズブレスレットとする企画を考え、これを長谷部に提示し、河原と村上ら長谷部の担当者との間の打ち合わせの結果、各月の誕生石の色別にアクリルの球をつなぎ合わせて房を付けた一二種類のブレスレットにするという商品の基本構想が決まった。
その後すぐに、河原は、玩具などのパーツを組み合せて要求した製品を作成する業者として、以前原告と取引のあった韓国のアインを村上に紹介し、村上は、アインと連絡を取り、前記のような商品の基本構想を説明してサンプルの作成を依頼した。
(四) 同年一二月二四日、河原と村上らは、商品サンプルを持参して来日したアインの代表者サラ・ジョーン(以下「サラ」という。)と、右サンプルを見ながら商品に関する打ち合わせを行った。その際、各月の誕生石の色に合うアクリル球の色合いをそれぞれ決めたほか、河原がサラに対し、アクリル球のつなぎ方につき、大きな半透明の球三個につき小さな色付きの球一個を組み合せてつなぐことなどを指示した。
(五) 同年一二月三〇日ころ、アインから前記の指示に従って作成した商品サンプルが長谷部に送付された。河原と村上の間で右サンプルを検討した結果、四月のダイヤモンドのブレスレットを丸いアクリル球のものから本物のダイヤモンドのようにカットしたものにすることとなり、村上がアインにその旨を指示した。
(六) その後、河原とサラとの電話での打ち合わせ及び村上とサラとのファックスでのやりとりの結果、ブレスレットに付ける房をリリアンにすること、使用するアクリル球を大一二個と小四個の合計一六個とすることなどが決められ、さらにアインからサンプルの送付を受けて、河原がアクリル球と房の色を決定し、平成七年一月二〇日ころに、最終的な商品が別紙第一目録記載のとおりのものに確定した。
2 以上の経過によると、原告製品は、原告が、企画し、その形態を決定し、アインに指示して製造させ、販売した商品であるから、原告製品を開発・商品化して市場に置いた主体は原告であり、原告製品は、原告の商品というべきである。したがって、原告は、原告製品を模倣した商品に関し、不正競争防止法二条一項三号に基づく権利の主体となり得る。
二 争点2について
被告は、原告製品のような数珠状のブレスレットは原告製品が発売される以前から一般的に存在していたから、原告製品の形態は同種の商品が通常有する形態である旨主張し、その証拠として、乙第二号証の一ないし三、第一二号証ないし第一四号証を提出する。しかしながら、乙第一二号証ないし第一四号証は、子供向けの玩具である原告製品とは明らかに商品の種類を異にする数珠又はアクセサリー用の略式数珠に関する証拠であり、また、乙第二号証の一ないし三に示された商品は、数珠状のブレスレットであることにおいて原告製品と共通するのみで、別紙第一目録記載のような原告製品の具体的形態、とりわけ各月の誕生石に対応するアクリル球と房の色を備えたブレスレットという特徴的形態を具備するものではなく、これらの証拠はいずれも、原告製品と同様の形態の同種商品が原告製品の発売前から一般的に存在していたことを示す証拠とはいえない。また、証人村上和由の証言及び被告代表者の供述中にも、数珠状のブレスレットが原告製品の発売前から存在していた旨の供述があるが、その具体的形態は不明であり、これによって、原告製品と同様の形態の同種商品が原告製品の発売前から一般的に存在していたことを認めることはできない。
したがって、原告製品の形態が、同種の商品が通常有する形態であると認めることはできない。
三 争点3について
被告製品の形態が原告製品の形態と同一であること、被告製品は原告製品と同じく韓国の業者から輸入したものであること、原告製品が最初に韓国から輸入されたのが平成七年四月、二回目に輸入されたのが同年七月であるところ、被告製品が韓国から輸入されたのは同年一二月末ころであることを総合すると、被告製品は、韓国の業者が原告製品に依拠して製造したものであり、原告製品の形態を模倣した商品であると認められる。
被告は、被告製品と原告製品とは、同じ韓国の業者から輸入された同一の商品と考えられるから、被告製品は原告製品を模倣したものではない旨主張する。しかしながら、仮に、被告製品が原告製品と同じく前記アインによって製造され、被告が輸入したものであるとしても、前記一で認定したとおり、原告製品は、原告が開発・商品化した商品であり、アインは原告の具体的な注文に従って原告製品の製造を行ったものにすぎないから、アインが原告とは無関係に原告製品と同一の形態の商品を製造すれば、その商品は、原告製品を模倣した商品にほかならないというべきである。したがって、被告の前記主張は理由がない。
四 争点4について
被告が平成七年から同八年までの間に被告製品を販売することによって得た利益の額については、二四万六四〇〇円の範囲で当事者間に争いがなく、これを超える利益を得たことを認めるに足りる証拠はない。
被告製品の販売によって被告が得た利益額二四万六四〇〇円は、不正競争防止法五条一項により、被告の不正競争によって原告が被った損害の額と推定される。
五 結論
以上によると、原告の本訴請求は、二四万六四〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 大西勝滋)
第一目録
「誕生石ロザリオ」
色つきアクリル球一六個を繋ぎ合わせて、腕輪状にしたものに房をつけたもので各誕生石に対応して球と房の色が異なる一二種類がある。
一月 ガーネット 赤色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
赤色の房(写真1)
二月 アメジスト 紫透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
紫色の房(写真2)
三月 サンゴ 黄色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
橙色の房(写真3)
四月 ダイヤモンド 透明の球(ダイヤモンドカット球四個ごとに小球)
白色の房(写真4)
五月 エメラルド 緑透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
緑色の房(写真5)
六月 パール 白色の球(但し四個ごとに小球)
白色の房(写真6)
七月 ルビー 橙色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
橙色の房(写真7)
八月 サードオニキス 桃色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
桃色の房(写真8)
九月 ブルー・サファイア 紺色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
紺色の房(写真9)
一〇月 オパール 黄橙色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
赤色の房(写真10)
一一月 トパーズ 白色透明の球(但し四個ごとに小球)
白色の房(写真11)
一二月 トルコ石 水色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
水色の房(写真12)
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第二目録
「誕生石ブレスレット」及び「CD&ブレスレット」のうちのブレスレット
色つきアクリル球一六個を繋ぎ合わせて、腕輪状にしたものに房をつけたもので各誕生石に対応して球と房の色が異なる一二種類がある。
一月 ガーネット 赤色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
赤色の房(写真13)
二月 アメジスト 紫透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
紫色の房(模写図14)
三月 サンゴ 黄色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
橙色の房(模写図15)
四月 ダイヤモンド 透明の球(ダイヤモンドカット球四個ごとに小球)
白色の房(写真16)
五月 エメラルド 緑透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
緑色の房(写真17)
六月 パール 白色の球(但し四個ごとに小球)
白色の房(写真18)
七月 ルビー 橙色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
橙色の房(写真19)
八月 ペリドット 桃色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
桃色の房(模写図20)
九月 サファイア 紺色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
紺色の房(模写図21)
一〇月 オパール 白色透明の球(但し四個ごとに小球)
白色の房(写真22)
一一月 トパーズ 黄橙色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
赤色の房(写真23)
一二月 トルコ石 水色透明の球(但し四個ごとに色の濃い小球)
水色の房(写真24)
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